映画『ジョーカー』のエキストラ

2019年に『ジョーカー』という映画が公開され、3回見た。3回目に見たときに、後ろに立っているエキストラが気になった。

 

アーサーの家に向かう道で、郊外に入っていくと、黒人やアジア系が住んでいる地域がある。ただ、アーサーが住んでいるところはさらにそこを通り抜けて長い階段を上ったところで、あまり人が通らない。

アーサーの家では風呂でもラジオを聞き、母親のベッドでテレビを見る。テレビ番組が収録されているのは同じゴッサムシティの中心部だが、華やかでどこか遠く隔たった場所に見える。

アーサーは同じアパートに住んでいる女性を尾行すると、銀行のある通りに行きつくが、その辺りには身なりのいい女性が歩いていたりする。

ピエロの格好をしたアーサーが電話をかけるシーンでは、背景に娼婦のような女性が立っている。

初めての殺人の後に走って逃げるシーンの背景にはドラム缶で火にあたっているホームレスのような人影が見える。

この映画ではアーサーの行動を追いながら、その背景にエキストラを映すことで、人種や経済状態によってそれぞれの地域に分かれて暮らしているゴッサムシティの有り様を映像で描いている。

似た境遇の周囲の人々とうまく交流できず、テレビやラジオの華やかな世界に浸っているアーサーの様子は、自分が仕事に就けなかったときのことを思い出させられて身につまされる。同じ街には活躍している人がたくさんいるのに、自分が社会にうまく関わっていけないことで、孤独と無力感を感じていた。この映画では周囲の街の雑音などがたくさん使われているのだが、それがアーサーの孤独を強調している。

最後のシーンではピエロの仮面をかぶってデモ参加者が大暴れするのだが、ピエロの仮面をかぶることで人種や身元がわかりにくくなった人々が町の中心部で暴れる様子には、格差によって秩序づけられていた街が混沌としていく様子が象徴的に描かれていると思う。